先日、IT 企業の経営者が集まる勉強会で、こんなテーマが出た。「SES や受託開発は、AI でこれからどうなるのか」。

同じ業界で会社を経営する人たちが、それぞれの読みを持ち寄る場だった。沼倉はその中で、自分をこう紹介している。システム開発には、この1年ちょっとで参入したタイプです、と。

01「AI で何でもできるっしょ」は、半分外れた

もともとは、AI を活用すれば何でもできるっしょって息巻いていたタイプなんですけど、実際に現場に立ってみて、自分でゼロから学んだりもしてみて、結論、無理だなと思っています。

— 沼倉 隆平(代表取締役)/経営者の勉強会にて

では何が無理だったのか。沼倉が挙げたのは、暗黙知だった。

世の中的には AI で何でもできるって思っているけど、結局現場に立ってみると、その会社さん独自の慣れとか経験とか知識みたいな、いわゆる暗黙知って言われる領域がある。ここって、AI とかネット検索でも出てこない領域じゃないですか。

— 沼倉 隆平(代表取締役)/経営者の勉強会にて

理屈で考えると、これは当然のことでもある。AI が学べるのは、どこかに書かれたことだけだ。暗黙知は、その定義からして、どこにも書かれていない。お客さんが「言うまでもない」と思っている前提や、現場で何年も積み重なった段取りは、誰かが聞き出して、言葉にしない限り、AI の手元には届かない。

なので、独自のデータを活用するための上流の部分は、ずっとなくならないなと思っています。ただ、設計ができたあとに現場レベルで手を動かす部分は、どんどん最適化されていくんだろうなと。

— 沼倉 隆平(代表取締役)/経営者の勉強会にて

02翻訳家に起きたことが、プログラミングにも起きる

「手を動かす部分」がどう変わるのかを、沼倉は翻訳にたとえた。

外国の方と仕事をするときの翻訳家が、Google 翻訳とかで、ちょっとずつ価値が薄くなっているじゃないですか。それと同じように、機械と会話をする、プログラミングの現場レベルの部分はどんどん薄くなるんだろうなと。でも、中堅以上の部分の価値は残り続けるだろうなと思っています。

— 沼倉 隆平(代表取締役)/経営者の勉強会にて

機械翻訳が広まっても、翻訳という仕事がなくなったわけではない。薄くなったのは「文を別の言語に置き換える」ところで、相手の意図を汲む、場の空気を読む、どこまで訳してどこを訳さないかを決める、といった判断の部分は人に残っている。プログラミングも同じで、「決まった仕様をコードに置き換える」ところから薄くなっていく、というのが沼倉の読みだ。

3枚の層が重なった抽象図。いちばん上の明るい層には判断を表す点と線があり、下の2層には作業を表す細かい点が散らばっている。

03税理士事務所を、思い浮かべてほしい

では、組織はどういう形になっていくのか。ここで沼倉が持ち出したのが、税理士事務所だった。

税理士事務所って、税理士さんが作業するのは上流工程だけじゃないですか。現場レベルで手を動かして書類を作るとか、会計処理をするのは、たぶん税理士じゃない事務の方がやっている。エンジニアも、今そういう時代になっているのかなと思っていて。

— 沼倉 隆平(代表取締役)/経営者の勉強会にて

なので、エンジニアさんはディレクション側に置いちゃって、作業系のレイヤーは事務の人に Claude Code(AI のコーディングツール)を使ってもらう。僕の中ではそれでいいかなと思っていて、うちはそういう組織体系にしています。

— 沼倉 隆平(代表取締役)/経営者の勉強会にて
税理士事務所と開発チームの比較図。判断するのは税理士とエンジニア、型は仕訳のルールと講義・議事録、作業は事務スタッフとメンバー+AI。
税理士事務所と、これからの開発チームの役割分担

このたとえは、よく考えるほど筋がいい。税理士事務所という形がうまく回っているのには、理由が3つある。

  • 判断と作業が分かれている。どう処理するか、どこに税務上のリスクがあるかを決めるのは税理士。決まったことを入力し、書類にするのは事務スタッフ。
  • 作業に「型」がある。勘定科目や仕訳のルールがあるから、資格がなくても手を動かせる。会計ソフトがその型を支えている。
  • 最後に専門家が見る。事務スタッフが作ったものは、税理士が確認してから外に出る。

これまでの開発組織は、この形をとりにくかった。2つ目の「型」がなかったからだ。手を動かす作業そのものにプログラミングという専門技能が要るので、判断する人と手を動かす人を分けても、手を動かす側にも結局エンジニアを置くしかなかった。

AI が変えたのは、ちょうどこの部分だ。コードに置き換える作業を AI が肩代わりできるようになったことで、開発にも「型」が生まれた。判断は設計とディレクションを担うエンジニアが持ち、作業は AI を使うメンバーが担い、最後はエンジニアがレビューする。税理士事務所と同じ三段構えが、開発でも組めるようになった。

税理士事務所これからの開発チーム
判断する人税理士エンジニア(設計・ディレクション)
型勘定科目・仕訳のルール、会計ソフト講義・議事録・設計書、AI のコーディングツール
手を動かす人事務スタッフAI を使うメンバー
最後に見る人税理士のチェックエンジニアのレビュー

04全員が、工程を1段上がる

この話を一言でまとめると、AI が入ってきたことで、全員が工程を1段ずつ上がるということだ。

分かりやすいのが、SEO 記事の制作だ。これまでは、ライターが構成を考えて、調べて、何千字も書いていた。今は、下書きなら AI が数分で出してくる。そうなると、人の仕事は「書くこと」から、どの読者に何を届けるかを決め、構成を指示し、出てきた原稿が正しいか、読者の役に立つかを判断することに移る。ライターではなく、ディレクターになるわけだ。

開発でも、まったく同じことが起きている。

これまでこれから
SEO 記事ライターが自分で書くディレクターとして、AI に書かせて判断する
エンジニア仕様をコードに書くお客さんの暗黙知を聞き出して設計し、レビューする
未経験の人まず何年もプログラミングを学ぶ初日から AI を使って、手を動かす側に立つ

エンジニアは、コードを書く人から、設計して判断する人へ。そして、エンジニアが1段上がって空いた「手を動かす」場所に、AI を持った未経験の人が入ってくる。税理士が判断に集中できるのは、事務スタッフが手を動かしてくれるからだ。開発も、それと同じ形になっていく。

ここで大事なのは、1段上がった先の仕事は、AI が肩代わりしてくれないということだ。何を書かせるか、何を作らせるかを決めるには、読者やお客さんの暗黙知が要る。だから、上がった人ほど、現場の話を聞きに行く仕事が増える。

05うちでは、代表の3,000時間を「型」にした

型は、自然にはできない。イケメンでは、代表自身の学習の記録をそのまま型にしている。

僕が完全未経験から学んだこの1年、3,000時間くらいずっと AI を学んでいたんですけど、その履歴を380講義くらいの動画教材に変えていて。当時から議事録ツールを自社で作って、僕が何を学んでどういうことをしたかを、全部データで貯めていました。

— 沼倉 隆平(代表取締役)/経営者の勉強会にて

それを自社で作った学習システムに入れて、新しく入った人に見てもらう。大体30時間なんですけど、これを見ればある程度作れるようになるから、1日目からやろうぜ、というのを今やっています。

— 沼倉 隆平(代表取締役)/経営者の勉強会にて

沼倉が未経験の人を積極的に迎えているのは、この仕組みがあるからだ。上流の人がやってきた工程を、全部データに残して構造化してある。だから、手を動かす側に入る人には、プログラミング経験を求めなくていい。税理士事務所に入った事務スタッフが、会計ソフトと先輩の仕訳を見ながら仕事を覚えていくのと同じ構造だ。

講義の中身は「代表の3,000時間を、380講義にした」の記事で詳しく紹介している。

暗黙知を型にして回すサイクルの図。暗黙知、議事録に残す、講義・型にする、AIで手を動かす、判断・レビュー、の5つが矢印で循環している。
暗黙知を、議事録と講義で「型」にして回す

06もう一段上の話:データを持つことが、誰にでもできるようになる

沼倉の話は、組織の形だけでは終わらない。その先にあるのは、データの話だ。

もともと Google とかがやっていたような、自社のデータバンクみたいな部分が、AI のおかげでどこの企業でも参入できるようになる。これがもう少し民主化されて、一般の人たちでもやっていけるような世界観になってくるんじゃないかなと、個人的には思っています。

— 沼倉 隆平(代表取締役)/経営者の勉強会にて

イケメンは、もともとシステム開発をやりたくて始めた会社ではない。「イケメン」という抽象的な言葉を、外面・内面・経済面という3つの軸に分けて、仕組みでつくれるようにする。そのゴールから逆算して、自社のデータを大量に集めるサービスを何十個もつくるために、開発を始めた。

ここで、暗黙知の話とつながる。AI が学べないのは、どこにも書かれていないことだった。逆に言えば、暗黙知を聞き出して、書いて、データとして持っている会社は、AI 時代にいちばん強い。議事録を全部残し、講義にし、サービスで集めたデータを溜めていく。沼倉がやっているのは、全部その一本の線の上にある。

07営業も、同じ形で回している

同じ勉強会で、別の経営者から「創業したてのころ、どうやってお客さんを見つけていたか」と聞かれたとき、沼倉が話したのも、実は同じ構造だった。

質がないうちは、とにかく量をやりまくる。その過程で、質は勝手についてくるので。で、力が少ないうちは、とにかくギブをしまくる。

— 沼倉 隆平(代表取締役)/経営者の勉強会にて

商談ではまず相手の事業の話を30分ほど聞き、その場で最低2人は紹介を出す。エンドのお客さんになりそうな人をいつも出せるわけではないので、「2番目にうれしい紹介先はどんな方ですか」と聞いて、紹介のハードルを下げる。そして、ここでも議事録が出てくる。

議事録は絶対必須です。半年くらい続けると、つながってきた業界の方の課題感が分かってくる。その課題感が議事録にどんどん溜まっていけば、それを AI と壁打ちしながら、こういう特化したパッケージを作りますよ、と小さく案件化できる。

— 沼倉 隆平(代表取締役)/経営者の勉強会にて

現場の声を聞き出して残し、型にして、AI で小さく形にし、反応を見て次を決める。組織づくりも営業も、暗黙知を型にして回すという同じサイクルでできている。

08手を動かす価値が薄くなる時代に、入口は広がった

「プログラミングの現場レベルの価値は薄くなる」と聞くと、未経験の人には悪い知らせに聞こえるかもしれない。でも、税理士事務所のたとえで考えると、見え方が変わる。

税理士事務所の事務スタッフは、資格がなくても入れる。そして、税理士の判断を横で見ながら、仕訳の意味や、お客さんとの話し方を覚えていく。開発も、同じ入口ができた。コードが書けなくても、AI を使って手を動かす側から入れる。そのうえで、上流の人がどう判断しているかを、講義と議事録と日々のレビューで、すぐ横から見られる。

AI が肩代わりするのは、書かれたことを形にする作業だ。書かれていないことを聞き出し、判断する力は、人にしか育たない。イケメンが用意しているのは、その力を、手を動かしながら育てられる場所だ。

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選考ではなく、まず面談から。挫折の経験がある方ほど、一度お話ししたいと思っています。

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