「鍛える」と聞いて、何を思い浮かべるだろう。
歯を食いしばって、もう一回。睡眠を削って、もう一件。スキルを足して、資格を足して、人脈を足して。たぶん多くの人は、鍛えることを「足していくこと」だと思っている。僕も、ずっとそう思っていた。
でも、ある武術家の方の話を聞いて、その考えがひっくり返った。
鍛えるの本質は、足すことじゃない。削ることだった。
01刀は、叩いて「減らして」つくる
「鍛錬」の「鍛」も「錬」も、もとは金属を打ち、ねり上げることを表す字だ。その代表が、日本刀づくりだと思う。
刀の刃になるのは、玉鋼(たまはがね)という鋼だ。刀匠はそれを炎の中で真っ赤に熱し、槌で叩く。叩いて、折り返して、伸ばす。また折り返して、また伸ばす。これを何度も何度も繰り返す。
この作業の大きな目的のひとつが、不純物を飛ばすことだ。叩くたびに、表面の酸化した皮や、鋼の中にあった要らないものが外へはじき出されていく。
どれくらい減るのか。約4kgの玉鋼が、仕上がる頃には約1kgの刀身になる。刀匠によっては5kg、それ以上を使う人もいる。
叩き出されていくのは、4分の3以上。残るのは、4分の1だ。
強い刀は、何かを足してできるわけじゃない。要らないものを叩き出した結果として、残る。
02僕らは、不純物のかたまりだ
これを自分に置き換えると、ちょっとドキッとする。
今の自分の時間、人間関係、習慣、考え方。そのうち、本当に必要なものはどれくらいあるだろう。
正直に言えば、半分以上は要らないものだと思う。 刀なら4分の3だ。僕もそうだし、たぶん、これを読んでいるあなたも。僕らは、不純物のかたまりなんだ。
惰性で続けている付き合い。なんとなく顔を出している飲み会。やらなくても誰も困らない作業。一つひとつは小さくても、積み重なると、本当にやるべきことに使える時間と頭を、確実に奪っていく。
成長しようとすると、人は「何を足すか」から考えがちだ。でも先に考えるべきは、「何を捨てるか」なのかもしれない。
031日8時間しか、仕事ができなかった頃
振り返ると、僕はこの「鍛錬」を、自分で選ばずに強制的にやらされたことがある。
24歳で、約6億円の負債を負ったときだ。
当時は、1日のうち8時間ほどを謝罪に使っていた。かかってくる電話に出て、いろんな人の感情を受け止めて、頭を下げる。それだけで1日の3分の1が終わる。
残りの時間から、最低限の睡眠と食事と移動を引くと、仕事に使えるのは8時間しかなかった。そして、その8時間で結果を出さなければいけなかった。
少ない時間で、最大の結果を出す。そうなると、やれることはひとつしかない。無駄を削ぐことだ。
要らない人脈。余計な付き合い。意味のない飲み会。気づけば、そういうものがどんどん削ぎ落とされていった。削ろうと決めたというより、削らなければ前に進めなかった。
当時は必死すぎて、そんなふうに考える余裕はなかった。でも今振り返ると、あの時間は間違いなく、僕にとっての鍛錬だったと思う。叩かれて、叩かれて、不純物が飛んでいった。
04借金しなくても、鍛錬はできる
もちろん、誰かに6億円の借金を勧めるつもりはない。あんな形で鍛えられる必要はまったくない。
大事なのは、環境に強制される前に、自分で自分を叩くことだ。といっても、大げさなことじゃない。たとえば、今日からこんなことが試せる。
- 1週間、時間の使い道を書き出して、「やめても誰も困らないもの」に線を引く
- 「なんとなく」続けている付き合いや集まりを、ひとつ減らす
- 新しく何かを始める前に、何をやめるかを先に決める
- 「今日、仕事に使える時間が8時間しかなかったら」と考えて、やることを選び直す
最後のひとつは、僕が実際にやらされたことの、いちばん小さな再現だ。時間に上限をかけると、何が本当に必要なのかが驚くほどはっきり見えてくる。
05残ったものが、あなたの刀になる
削ることは、怖い。せっかく積み上げたものを手放すのは、損をしているように感じる。
でも、刀は削ったから弱くなったわけじゃない。削ったから強くなった。
足して強くなろうとするのをやめて、削って強くなる。 イケメンのメンバーにも、「鍛える」をこの意味で意識してほしいと伝えている。
4kgのうちの、1kg。叩いて、要らないものを飛ばして、最後に残ったもの。それが、あなたにとっての刀になる。



